洞窟のような場所をさまよい歩いているひとりの少女が、自らが手にしたスマートフォンのカメラと向き合い、悲痛な面持ちで話し始める。「私は昔から映画が大好きで、ずっと女優を夢見てきました。寝る間も惜しんで勉強し、テヘランの芸術大学に合格した。でも、夢は砕け散った」。少女の名前はマルズィエ(マルズィエ・レザエイ)。自分の家族らに裏切られ、女優への道を断たれたと告白する彼女は、憧れの人気女優であるベーナズ・ジャファリ(ベーナズ・ジャファリ)に家族を説得してもらおうと何度もコンタクトを試みたが、その望みも叶わなかった。そうして人生に絶望したマルズィエの動画は、彼女が首にロープをかけ、スマホが地面に転落したところで終わっていた。
とある夜、走行中の車の助手席でマルズィエの動画を再生したジャファリはショックを隠せない。見知らぬ少女の“遺言”が自分に宛てられていたことに加え、彼女にはマルズィエからの電話やメールの着信を受けた心当たりがまったくなかったのだ。動画を最初に入手したのは、車の運転席に座っている映画監督のパナヒ(ジャファル・パナヒ)である。友人同士でもあるふたりは、マルズィエは本当に命を絶ったのかを確かめるため、彼女が住むイラク北西部のサラン村に向かっていた。
翌朝、サラン村に近づくごとに、道はどんどん狭く、険しくなっていった。山間の曲がりくねった道で老人に村へのルートを尋ねると、なぜかその老人は「クラクションを鳴らせ」と促してくる。そのまま道を進むと結婚式を祝う一団に遭遇し、墓地に立ち寄ると墓穴に寝っ転がっている奇妙な老婆に出くわした。村はどこを見渡しても平和そのもので、地元の少女、すなわちマルズィエの死を悼んでいる気配はどこにもない。 登校中の子供たちとその親に囲まれた有名人のジャファリは、皆からサインを求められる。「マルズィエを知ってますか?」。パナヒが村人たちに問いかけると、ひとりの男性が「あんたたち、あのバカ娘を捜しに来たのか?」と吐き捨てるように言い放つ。どうやらマルズィエは、この村では異端児と見なされているらしい。しかし収獲もあった。マルズィエの妹が家まで案内してくれるというのだ。家にマルズィエの姿はなく、困り果てた風情の母親がジャファリとパナヒを迎え入れた。「3日前から戻らないんです。村じゅう捜しても、どこにもいなくて」。古めかしい慣習が色濃く残り、“芸人”に対する偏見が根強いこの村では、芸術大学への進学を選んだマルズィエは総スカンを食らっており、それを恥と感じている弟も怒り心頭で荒れ狂っていた。マルズィエと親しいいとこのマエデーは、彼女とは数日前に会ったきりだと証言する。やむなくジャファリとパナヒは動画の撮影場所である洞窟を探索するが、そこにはマルズィエの遺体はおろか、首を吊ったロープもスマホも見当たらなかった・・・。